は じ め に
 
    日本鉄道保存協会が設立されて、今年で19年となりました。この間、微力ながら皆さまのご支援とご協力を頂きながら活動を続けてきました。加盟団体がようやく30を超え、一層の広がりをみせていることは喜びにたえません。
 最近では、歴史的車両の動態保存や静態保存が全国各地で推進され、広く一般の関心を集めつつあります。歴史的車両だけでなく、駅舎・橋梁・隧道など鉄道施設や鉄道に関する図書・文書などの文化遺産を保存し、地域活性化の核として活用する事例も見られるようになりました。これらは我が国の誇るべき近代化遺産であり、大切な宝物として後世に伝え残していきたいものです。
 いま空前の鉄道ブームと言われ、多くの日本人が鉄道に対する関心を深めています。地球規模で激変する経済環境の中で、世界的に鉄道再評価の機運が高まり、わが国の政策も鉄道を中心とする公共交通の見直しに向かっています。また欧米諸国の事例が示すように、これからの成長産業と考えられる観光部門の中で、私たちの鉄道保存運動の果たす役割は小さくないと思われます。これらは私たちの活動にとってありがたい追い風です。
 一方で、私たちの活動は大きな困難にも直面しています。多くの保存団体に共通する財政難の問題は言うまでもありませんが、そのほかにも最近の傾向として、意気込み高く始めた保存事業が時の経過とともに勢いを失う事例や、市町村の合併に伴って管理運営の困難を来している事例も見られます。この鉄道保存協会自体も、組織と言うにはあまりにも脆弱な存在であり、体質強化の必要に迫られています。私たちの活動の意義を、もっと多くの人々に伝え、理解してもらうことが何よりも必要です。これらの難問をどのようにして克服していくか、これからの保存運動の試練と言えましょう。
 この総会は、正会員たる加盟団体と賛助会員が一同に会し、鉄道保存運動に関心を持たれる多くの方々をオブザーバーとしてお招きして、お互いの経験を語り知識と意見を交換する貴重な機会です。本年は来賓として、ちょうど一年前に発足した観光庁の観光資源課長をお招きし、講演をして頂きます。その後の事例報告と討論では、参加者の皆さんの活発な発言を期待いたします。懇親会にさきだち、英国ウェールズの著名な保存鉄道であるフェスティニオグ鉄道のゴードン・ラシュトン氏が、彼の地の鉄道保存事業の先進的な実例を、興味深い写真を通じて解説してくださいます。翌日の見学会では日本工業大学工業技術博物館を訪問し、動態保存されているB6型蒸気機関車をはじめ、わが国の近代化を支えてきた数々の工作機械などの貴重なコレクションを見せて頂きます。慌ただしい24時間の日程ですが、参加者全員が明日の保存運動のための知恵と勇気を見いだせる機会となることを祈っております。
  
 
2009年10月
日本鉄道保存協会代表幹事団体
(財)交通協力会会長兼理事長 菅 建彦