は じ め に
 
   さる4月、日本鉄道保存協会は満20歳となりました。最初の正会員は鉄道車両の動態保存を行う14団体でしたが、その後静態保存をする団体も迎え入れ、現在は加盟団体が30を超えて、一層の広がりをみせています。開館したばかりのリニア・鉄道をお借りして、記念すべき年の総会を開くことができることは、まことに喜びにたえません。
 3月に東日本を襲った大震災、津波、原発事故の三重苦は、日本にとって大きな試練となり、会員団体の中にも事業運営に大き影響をうけたころがあます。被災地の皆様が一刻も早く立ち直ることを心からお祈りしたい思ます。この大災害を契機に日本社会をこれまで支配してきた価値観や人々の行動規範にも大な変化が生じようとしています。この変化が鉄道保存運動の追い風となることを期待したいと思います。
 このリニア・鉄道館をはじめ、歴史的車両の動態保存や静態保存は全国各地で推進され、駅舎・橋梁・隧道など鉄道施設や鉄道に関する図書・文書などの文化遺産を保存し、地域活性化の核として活用する事例も見られるようになりました。鉄道遺産は日本の近代化遺産の中でも最重要なものの一つであり、その価値を後世に伝えることは私たちの責務と言えます。日本ではこの数年、空前の鉄道ブームが続き、地球規模で激変する経済環境の中で世界的にも鉄道再評価の機運が高まり、わが国の政策も鉄道を中心とする公共交通の再構築に向かっています。これからの成長産業と考えられる観光部門の中で、保存鉄道が果たす役割は小さくないと思われます。とはいえ日本の現状は、欧米諸国の先進事例に比べるとまだまだ満足すべきものではありません。
 むしろ、私たちの活動は大きな困難にも直面しています。多くの保存団体に共通する財政難の問題は言うまでもありませんが、そのほかにも、意気込み高く始めた保存事業が時の経過とともに勢いを失う事例や、市町村の合併に伴って管理運営の困難を来している事例も見られます。
 21年目を迎えたこの鉄道保存協会自体も、組織と言うにはあまり脆弱な存在であり、組織面でも財政面でも体質強化の必要に迫られていますが、そのうえ、山田コレクションの保全と公開、国際組織への参加等の新しい課題への対応も緊急の課題となってきました。正会員、賛助会員、友の会会員が一体となり、知恵を出し合ってこれらの問題を克服し 、いっそうの発展を期したいと思ます。
  
 
2011年10月
日本鉄道保存協会代表幹事団体
公益財団法人 交通協力会理事長 菅 建彦