は じ め に
 
 
 日本鉄道保存協会は今年で満21歳、正会員14団体で出発した協会は、現在では会員数も2倍以上に増え、車輌の動態保存団体だけでなく、有力な博物館や意欲にあふれる自治体、ボランティアのグループなども加わり、多彩な顔ぶれがそろってきたことは喜びにたえません。本年は、地域が一体となって鉄道遺産の保存・活用に意欲を燃やしている鳥取県若桜町で総会を開くことになりました。地元の皆様のたゆまぬご努力に心から敬意を表し、この総会を受け入れてくださったご厚意にお礼申し上げます。
 昨年の大震災・津波・原発事故が残した大きな傷がまだ癒えず、欧州の経済危機に発する世界的不況と異常な円高の中で、日本経済も長い不振にあえいでいます。このことは、鉄道遺産保存の運動にも深刻な影響を与えていますが、同時にいまの日本人の心は、騒々しい成長とうわべだけの経済的繁栄よりも、もっと奥深い精神と文化の豊かさを求めていると言えましょう。日本の近代化を牽引した鉄道遺産を保存し、その価値を後世に伝える私たちの活動は、現代の日本人の心の底にある欲求に添うものであり、現在の鉄道ブームを単なる流行に終わらせないよう、理解者と支援者を増やす努力を続けたいと思います。
 いま日本の鉄道は、高速鉄道と都市鉄道の分野では世界をリードする存在になりましたが、鉄道遺産の保存活用の分野では、欧米諸国の後塵を拝しています。欧米、とくにイギリスでは、鉄道遺産保存のための法制も整備され、多数の支持者の寄付やボランティアの貢献によって活発に活動している保存鉄道が数多くあります。これらの鉄道は、経済的にも自立し、多数の観光客を集めて地域経済にも大きな貢献をしています。こうした先進国の事例を、われわれももっと真剣に研究し、今後の指針とする必要があります。
 昨年の総会でご承認いただいた方針に基づき、日本鉄道保存協会は、保存・観光鉄道の世界組織であるWATTRAIN (World Association of Tourst Trams and Trains)に日本を代表して加盟いたしました。WATTRAINの第1回総会は、今月上旬英国リーズで開かれ、総勢70余名比較的小規模な会議でしたが、イギリス、ドイツ、オランダ、スウェーデン、イタリア、アメリカ合衆国、カナダ、アルゼンチン、日本、台湾、オーストラリアなどから代表が集まり、活発な議論を交わしました。3年後の2015年には日本で総会を開くことに決まりましたが、このWATTRAIN 2015 を欧米の先進的な事例を学ぶ機会として活用し、日本の鉄道保存運動が先進諸国の水準に到達するための出発点にしたいと思います
 懸案の法人化の問題、山田コレクションの保全と後悔などの懸案もかかえて、課題の多いこれからの数年ですが、正会員、賛助会員、友の会会員が一体となって知恵を出し合い、将来の発展を期したいと思います
  
 
2012年10月18日
日本鉄道保存協会代表幹事団体
公益財団法人 交通協力会理事長 菅 建彦