は じ め に
 
    日本鉄道保存協会が設立されて、早くも20年が経ちました。この間、微力ながら皆さまのご支援とご協力のもとに活動を続け、加盟団体も30を超えて、一層の広がりをみせていることは喜びにたえません。
 いま歴史的車両の保存が広く一般の関心を集め、車両だけでなく駅舎・橋梁・隧道などの鉄道施設や、鉄道に関する図書・文書などの文化遺産を保存継承し、地域活性化の核として活用する事例も見られるようになりました。これらの鉄道遺産は我が国近代化の過程で生まれた誇るべき宝であり、、後世に伝え残していきたいものです。
 空前の鉄道ブームの中で多くの日本人が鉄道に対する関心を深めています。地球規模で激変する経済環境の中で、諸外国でも鉄道再評価の機運が高まり、わが国の政策も鉄道を中心とする公共交通の再評価に向かっています。欧米諸国の事例が示すように、これからの成長産業と見られる観光部門の中で、鉄道保存運動の果たす役割は小さくないと思われます。
 一方で、私たちの活動は大きな困難にも直面しています。多くの保存団体に共通する財政難の問題は言うまでもありませんが、人材の確保、技術の継承など様々な困難があります。鉄道保存協会自体も、組織と言うにはあまりにも脆弱な存在であり、体質強化の必要に迫られています。何よりも、私たちの活動の意義をもっと多くの人々に伝え、理解してもらうことが必要です。これらの難問をどのようにして克服していくか、保存運動が直面する試練と言えましょう。
 この総会は、正会員たる加盟団体と賛助会員が一同に会し、鉄道保存運動に関心を持たれる多くの方々をオブザーバーとしてお招きして、お互いの経験を語り知識・意見を交換する貴重な機会です。今年は北海道遠軽町丸瀬布、陸別町、上士幌町に、遠路をいとわず駆けつけた同志が相集い、意義ある討議と見学の機会を持ちたいと思います。慌ただしい日程ですが、参加者全員が明日の保存運動のための知恵と勇気を見いだすことができることを祈っております。
  
 
2010年10月
日本鉄道保存協会代表幹事団体
(財)交通協力会理事長 菅 建彦