足もとを見つめ直して

 
 

日本鉄道保存協会設立のきっかけは、当時の財団法人観光資源保護財団(愛称:日本ナショナルトラスト、以下JNT)がかねてよりおこなっていた全国鉄道文化財調査、報告書発行、「鉄道文化財を考える」シンポジウム開催など、鉄道保存にかかわるさまざまな活動であった。なかでも昭和62年の「トラストトレイン計画」の成功は、大きな力となった。

この「トラストトレイン計画」とは、市民募金でC12-164号、オハニ367号、スハフ432号、スハフ433号を国鉄から取得し、修理整備後、ボランティア活動により大井川鐡道で「トラストトレイン」として動態保存するスキーム。これらの活動をご指導してくださったのが、青木栄一氏(元東京学芸大学教授)、小池滋氏(元東京都立大学教授)、松澤正二氏(元交通博物館副館長)、星晃氏(元国鉄副技師長)、西尾源太郎氏(元国鉄多度津工場長)他、多数の識者達である。

日本鉄道保存協会の設立は、平成2年に開催された第2回「鉄道文化財を考えるシンポジウム」で提案された。日本鉄道保存協会設立準備会を経て、翌平成3年4月から、加盟団体の緩やかなネットワーク組織として正式に発足した。「仲間で手を取り合おう」を合言葉に、蒸気機関車等の歴史的車両の動態保存を行っていた、丸瀬布町、三笠鉄道記念館、北海道鉄道文化協議会、甦れSLC10-8運営協議会、財団法人埼玉県北部観光振興財団、上松町、大井川鉄道、財団法人明治村、なつかしの尾小屋鉄道を守る会、九州旅客鉄道株式会社などが当会の創立メンバーとなった。英国のような保存組織を設け、情報交換や技術交流などを通じ、力を合わせて末永い動態保存を目指すことを目的とした。第1回総会は大井川鉄道で開催し、代表幹事団体はJNTが務めることに決まった。

以後、2005年までこの体制が続いたが、諸般の事情により、代表幹事団体が財団法人交通文化振興財団、さらに財団法人交通協力会へと引き継がれることになった。この間、菅建彦氏(公益財団法人交通協力会顧問)のご尽力なくして、今日の当会の姿はなかったと言っても過言ではない。

日本鉄道保存協会設立から28年を経た今日、鉄道は近代化遺産として市民権を得、保存活用の輪は広がり、加盟団体や賛助会員は約60を数える。あわせて、会を支援してくださる個人会員として、友の会が発足した。昨今では歴史的車両の動態保存から、鉄道遺産を活かしたまちづくりや観光振興、地域活性化などの事例が全国にみられる。

私たちはこの動きを的確にとらえるとともに、日本鉄道保存協会の発足経緯を今一度振り返り、足もとを見つめ直しながら、将来に向けた活動を積極的に推進していきたい。

令和元年9月             
日本鉄道保存協会 代表幹事団体(仮)
公益社団法人 横浜歴史資産調査会  
会長 宮村 忠